図書館で借りたCDで金原亭馬生の「鰍沢(かじかざわ)」を聞いた。
身延山へのお参りの帰りに大雪で道に迷い,民家に助けを求めると,その家の女房が、客となったことのある吉原の元花魁。
この元花魁のお熊が悪女で,旅人が金を持っていると知ると、卵酒に毒を盛って金を奪おうとする。
酒に弱い旅人は,卵酒を少し飲んだだけで寝てしまう。
お熊が亭主の寝酒を買いに出かけている間に亭主が戻って来て,置かれたままの卵酒を飲み干すや(そりゃぁ飲むよな),毒が効いて死んでしまう。
気がついて逃げ出した旅人(身延山の護符の霊験で何とか体を動かせた)を,お熊は鉄砲を持って追いかける。鰍沢の断崖まで追い詰められ絶体絶命となったが,お熊の撃った鉄砲ははずれた・・・
初めて聞いた話だが、円朝作の話は,よくできており,馬生もうまい。
お熊の罪状(罪責)は,何だろう。
旅人に対しては強盗殺人の未遂だろう。
亭主に対しては,(重)過失致死か,それとも殺人か。
毒を入れた卵酒を置きっ放しにして家を出ている。
亭主が帰ってきて,卵酒があれば飲んでしまうことは十分予測できたはずだし,それでも構わないという未必の故意が認定される可能性もあるが,亭主がそんなに早く帰ってくるとは思わなかったという弁解も可能だ。
亭主殺しで起訴するのは難しい。
お熊の所業を見ていると,この際,亭主も殺してしまおうと思ったというのが真相のような気がするが・・・
もうひとつ,旅人を殺そうと思って誤って亭主を殺したのだから,いわゆる「事実の錯誤」で殺人の既遂が成立するのではないかという問題がある。
Aを殺そうと思って鉄砲を撃ったところ,弾がそれてBに当たり,Bが死んでしまった場合,
① Aに対する殺人未遂とBに対する殺人既遂が成立するという説
② Aに対する殺人未遂とBに対する過失致死が成立するという説
の二つの学説の対立がある。
しかし,毒入りの卵酒を提供した行為を,鉄砲を撃った行為と同列には論じられないだろうと思う。
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落語には犯罪行為(まがい)の話が結構出てくる。
「黄金(こがね)餅」の金山寺屋の金兵衛は,銀貨を入れた餅をたくさん飲み込んで死んだ西念の葬式を出し,焼き場で焼いてもらった骨上げの際,アジ切り包丁を使って生焼けの腹から,銀貨を取り出して我が物とし,それを元手に黄金餅の店を出す。
近代刑法では,死体と並んで遺骨も死体等損壊罪の対象になる。
アジ切り包丁で遺骨(?)の生焼けの腹部を切り裂くのは,遺骨損壊だ。
金を奪った行為はどうか。
西念は死んでしまっている。西念には身よりがないから,相続人もいない(としよう)。
喪主は金兵衛であり,金を焼き場が占有しているとは言えないので,窃盗にはならないだろう。
占有離脱物横領罪はどうか。
所有者がいない無主物であれば,占有離脱物横領の対象にはならない。
古墳内に納められていた宝石・鏡・埴輪などを取得した場合に占有離脱物横領が成立する,という戦前の判例があるが,これは古墳所有者の所有物なので,そうなるだろう。
西念の腹の中の金は無主物であり,金兵衛には占有離脱物横領罪は成立しないと思うが,よくわからない。
無主物であれば,民法239条(無主物先占)で金兵衛が金の所有権を取得する。
焼き場の焼き賃を踏み倒したのは,最初から踏み倒すつもりなら詐欺だが・・・
「芝浜」の勝五郎は,芝の海で拾った財布を家に持ち帰り,在中の四十二両で安楽ができると,酒を飲んで寝てしまう。
自分の物にしようと家に持ち帰った時点で,遺失物(占有離脱物)横領が成立している。
おかみさんが勝五郎の寝ている間に大家と相談し,お上に届け出たとしても,それは犯罪成立後の情状だ。お上にその事情が明らかにならなかったから,お咎めがなくて済んだが・・・
「居残り佐平次」は、完全な詐欺(無銭飲食)だ。
「時そば」もかわいい詐欺。
「藁人形」で西念から大金を巻き上げる詐欺を働いたのも,お熊という女郎だった。
お熊というのは,悪女の代名詞らしい。
「江島屋騒動(藤ヶ谷新田 老婆の呪い)」で、イカ物の花嫁衣裳を売った江島屋治右衛門も詐欺になる。
老婆は江島屋の一家眷族(けんぞく)皆殺しと呪い、江島屋の女房と小僧が病気や事故で死に、治右衛門も目を患う。これは、いわゆる「不能犯」で犯罪は成立しない。
また,他の話でも考えてみたい。
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2010年12月27日月曜日
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